理想、要求は主義で解決は出来ない。主義の項目を如何ほど暗記しようとしても、それの中心たる、これでこそ生きているという終極の安心は得られないでしょう。その時その女性は、本当に自分の道を見出す必要に迫られて来るのです。自分の安心立命の出来るものを発見しようとした時、初めて時代と自分というものの本当の交渉が理解されるようになり、或はまたその時代の標準、方法、理想に満足するかも知れません。然しそれは人によって違うことで、ある人はその道の前に、或いは後に、それを見出すでしょう。そこに、その人の運命は定まるのです。

          三

 この意味から、真の自分が何であるかを知る必要があります。それは教育でもなければ、また時代の影響でもない、三つ子の魂そのものです。これは各個人によって違っているものであるから、真実まことの自分を各自は考えなければなりません。此処に於て初めて、或る時代に一人の人間が生きているということになるのです。即ちその人は色々時代的な感興を享けるのでなくて、時代の中にあるものを吸って真の時代に混和させ、而して自分を作り上げるのです。時代通りにすることは無意味です。然しする
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