今日の耳目
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)烏賊《いか》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)たどん[#「たどん」に傍点]をこねている
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高札
いつも通る横丁があって、そこには朝鮮の人たちの食べる豆もやし棒鱈類をあきなう店だの、軒の上に猿がつながれている乾物屋だの、近頃になって何処かの工場の配給食のお惣菜を請負ったらしく、見るもおそろしいような烏賊《いか》を賑やかに家内じゅう総がかりで揚げものにしている蒲焼の看板をかけた店だのというものが、狭い道に溢れて並んでいる。
そういう横丁の出はずれに一軒しもたやがある。門構えで、総二階で、ぽつんとそういう界隈に一軒あるしもたやは何となし目立つばかりでなく、どう見ても借家ではないその家がそこに四辺を圧して建てられていることに、云わばその家の世路での来歴というようなものも察しられる感じなのである。
何年もその家はそこに在って、二階の手摺に夜具が乾してあるのが往来から見えたりしていたが、昨年の初めごろ、一つの立札がその門前に立てられた。
梅時分になる
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