にあって立ちのき先を四分板へ大書しておく、あの感じで、それは一種騒然たる街上の印象であった。出るにつけ入るにつけ、その四分板の大文字を見て暮す家人の胸中はどうであろう。悲しみを常に新たにされるというばかりでなく、ああいう標は、いろんないかさま師に何か思いつかせるきっかけになるのではないかと、その家に残っている女の人々の日常の感じが思いやられる。

        好学心

 三月が近づいて来る。試験のいろいろな記事が新聞に出はじめた。それらの記事を人は様々の心で読むだろうが、今年それらの記事に目をさらす幾千かの若い瞳の裡なる人生への思いを考えると、何か苦しくなる。実業学校の卒業生は上級学校へ入れないことになったという事実には、それらの少年たちへのむごさがあると思う。
 今日の世界の歴史が切迫し激動しているということから割り出されて来る社会的な必要と云われるもので目前説明されても、やはり世人のうけた感銘からは消されない人生的なものがある。
 今度は商業学校の教育方針が変えられて、従来の個人的な儲け専一の心での商業感を新しく鋳直そうとする意図が示されている。商売というものの性質も昨今は急速
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