今日の作家と読者
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所謂《いわゆる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)その人たち[#「その人たち」に傍点]のことから
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 この一二年来、文学的な本を読む読者の数がぐっとふえていることは周知の事実であって、それらの新しい読者層の何割かが、通俗読物と文学作品との本質の区別を知らないままに自身の購買力に従っているという現象も、一般に注意をひいて来ている。そこに、今日の文化の地味の問題だの文学の成長の可能性の問題が、複雑な現今の社会生活の一面として横たわっていることに就て、総ての作家が無関心に暮しているわけでもないと思う。
 けれども、飾ない落付いた目で省みると、この読者層の質の推移ということの実際は、昨今急速にその人たち[#「その人たち」に傍点]のことから私たちのことにまで拡がって来ているのではなかろうか。作家・評論家はそれぞれ各々の読者をもっている。読者というものをその関係の範囲に従来どおり固定させて、その質が推移しつつあることが注目されたのは一年余り前からだが、今日では状態が更に
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