動いて、読者層の質について語ろうとすると、私たちの生活の中から、作家も評論家も読者を持っているというばかりでなく、自身が何かの形で誰かの読者ならざるを得ないという実際が浮び上って来て、それをもひっくるめたとき初めて読者層の質の問題が現実に即して考えられるように思われるのである。
作家・評論家自身がどのような質の読者として今日立ちあらわれているか、そして自身の状態をどのように自覚しているかということが、それぞれの周囲にある読者圏へ作用し作用されつつ、文化や文学の明日に影響する因子をなしていると思う。読者の問題は、もう作品を生み出してゆく人々自身がどういう質の読者であるかというところまでダイナミックに観察される時代になっている。そして、近頃は、その点でいろいろ深く考えさせられる実例が多い。何故なら、二三年前には文学の仕事にたずさわる人々は特別な専門に従って特別な本を輸入もしていた。それらについて云わば種本ともしていたのだが、このごろは、そういう便宜が次第に失われて来て、大掴みに云えば誰も彼もが大体に同じようなものを読むしかなくなっている。これまでは非常に個人的な系統と統一とをもって形づく
前へ
次へ
全9ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング