事実である。
フランスは今度の第二次大戦でドイツに敗北した。そのことから与えられた衝撃は或る意味では世界的な性質をもっていたと思う。何故フランスは敗れたのだろう。疑問は人々の眼の色に現われ、言葉にあらわれて、而も特に日本の条件ではその答えをどこからもつかめなかった。いち早く、フランスは頽廃した文化主義で敗れたというような解説者に対して、常識はそれが全部の答えでないことを直感していた。
モーロアの『フランス敗れたり』はこの心持に迎えられて出たのだから、読まれたのは当然だと思う。おそらくあらゆる職業と興味の角度からこの本は読まれたであろう。良書紹介などでこの本の名をあげた人々も尠くない。
けれども、実際として『フランス敗れたり』は果してどれだけの価値ある著作であるだろう。あの小著で通俗史家、報道員であるモーロアは果してどんな歴史の本質的な真実にふれ得ているだろう。モーロアはアメリカの上層の貴族趣味に向って巧に自分のフランス人としての上流的身辺を仄めかしながら、所謂《いわゆる》時の人々とその人々との会話の断片を捉えて、何か具体的めいた、重大な国家の事情や裏面に精通した人のように身振りし
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