ともかくさなかった。
「うちの父は変った性質なの。昔の人が山師って云うのは、ああいうのかもしれないわ。それでも、私はこんな学校へ入れてくれたりして……。うちの経済から云えば無理なんです」
そんな打明話もした。
とき子は、卒業するとすぐ、東京でも屈指の、半ば国立のような或る大銀行に勤めるようになった。採用試験のとき、とき子はいつも通りの素顔でゆき、勤めるようになってからもそれは変らなかった。とき子のその態度を峯子は無関心に見ていなかった。おくれて勤めるようになった峯子の海外貿易の会社が、その銀行のごく近所にあったりして、特にこの三年ほどの間に二人のつきあいは、自然と同窓生のありふれた範囲を超えたのであった。
峯子の働く会社は気風が派手で、若い婦人事務員は相当化粧にも凝る。勤めて間もない或るとき、峯子が素朴なおどろきをあらわして、
「うちの人たち大したものよ」
と云った。
「地顔とまるきりちがう顔色なんかしてケロリとしているんですもの」
父親が地味な語学の教授である峯子は、そんな都会風な扮装になれていないのであった。
「私の方はあんなところだから、いくらかちがうわね」
とき子はそ
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