った。それを積極的にいう友達も少くなかった。峯子には、そういう風に動く紀子の心理の底までが納得されると云えなかった。
 学校時代から知っていた正二を、新しい感情で見るようになって来ている自分に心づいたその頃の峯子は、紀子の飛躍が却ってすらりとのみこめなかったのであった。
「じゃあなたも新潟へいらっしゃるわけね」
 とき子が、ゆったりした口調できいた。
「ええ。でも当分あっちへ行かないことになってるの」
 紀子はまた靴の踵をグリグリとさせた。
「会社の奥さん連て、とても程度が低いんですって。坂本は、私がそんな仲間に入るののぞまないんですって」
 程度が低いって……。では、私たちは、一体どんな人間たちだというのだろう。
「坂本さん、毎日不自由していらっしゃるんじゃないの?」
「それは大丈夫なのよ」
 紀子は、二年も結婚生活をした妻と思えない単純さで、さらりと答えた。
「素人下宿のおかみさんが、何も彼もすっかりしてくれているんですって。親切な人らしいの。それに、やたらと忙しくって、帰ったらもう眠るだけなんですって。そんな生活では私にも気の毒だっていうのよ」
 顔はあちらへ向けたまま、注意ぶか
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