様子にも、念入りに化粧した顔にも、自分で自分がはっきりしていないというような表情が漂っている。ふわふわした気質ではあったが、坂本とアパートでエプロン姿でいたとき、こういう雰囲気は紀子の身についていなかった。
 紀子はしばらくして、半ば歎息するように、
「でも、本当にあなたがた羨しいわ。望むとおりに行動していらっしゃれるんですもの、やっぱり才能の問題ね」
「ソラ、おはこ[#「はこ」に傍点]が出た……」峯子はおだやかな非難をこめて、
「まだそんなこと云っているなんて。――紀子さんこそ行動的で皆をびっくりさせたじゃありませんか」
 紀子は、はにかんだように小さく笑って、
「だって……」
と肩をひくようにした。
「何だかこの頃は分らなくなって来ちゃったわ」
 坂本と結婚したのは二年前であった。紀子の生家と因縁の深い金貸の伯父がいや応なく紀子にその縁談を強いているのだと知ると、どうせそんな厭な奴が仲人になる位ならと、紀子は直接出かけて坂本に会い、坂本もその気になって、親たちの所謂縁談の進行にかけかまいなく、自分たちとして結婚してしまった。紀子はそうすることで、その結婚に自分を立て得たと思うらしか
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