下げ終わり]

(うたのこころはあなたにこそ、けれども玄人はこれを腰折れと申しましょう、平気よ)
 ここには大体一週間ばかりの予定で居ります、そして帰ったら又人足仕事をして荷物を何とかして田舎行の仕度いたします。すこし永く落付くために財務整理(!)がいるので本月一杯はどうしても東京にいなくてはなりません。来月おめにかかるときどちらでしょうね。煙と焼棒杙の間からお顔を見るような感じでしたから、田舎でゆっくりと出来たらさぞうれしいことでしょう。どこにしろわたしもそこで暮すのよ。そのつもりで居ります。汽車どころではなくなりましょうから。東京も外へ出て、あの焼原のどこかにぽっちり樹も青くているところがあり、そこに住んでいること思うと(焼あとを疾走する汽車の中で)殆どふしぎです。

 五月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 千葉県長者町より(封書)〕

 五月十日(ムッちゃんという子が来ていてやかましいの)
 三日づけのお手紙、丁度きのう出がけに頂いて、袋に入れ、こちらへくる汽車の中でたのしいおやつとなりました。これが一週に一、二度書いて頂けた時期の一番終りの分となりましたね。[自注12]虱の話。大丈夫
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