後に巣鴨、大塚、池袋にかけて大空襲をうけ、拘置所のぐるり一帯は焼野原となった。拘置所の高い塀の外にならんでいた官舎はすべて焼けた。幸い、舎房には被害がなかった。
[#ここで字下げ終わり]

 四月二十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(近江八景・粟津の青嵐(1―3)、京都平安神宮(2―3)、近江八景・堅田浮見堂(3―3)の写真絵はがき)〕

(1―3)
 二十三日づけのお手紙をきょう二十八日頂きました、この頃あんなにあつかったり煙かったりしたのに爽やかそうにしていらっしゃると思ったら、やっぱりそういうお気持よいことがあったのね、およろこび申します。こんな手紙がどこから来るのかとスタンプしげしげ見ましたがうすくて見えず。平常の時よりひとしおと眺められます、こんなエハガキ面白いでしょう? 有楽町駅のスタンドで買いました、大正頃こういう輪の人力車がありました。

(2―3)
 四月二十八日の夜。こんな飾り菓子のようなエハガキを御覧下さい。現実の色調は、まさかこれよりは遙かに典雅です。風雪という風流な力が人間と同じように其に耐える建物は淳化させて行きますから。でも、あなたは山を見てお育ち
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