人生から滴るつゆは、益※[#二の字点、1−2−22]人間生活の養いとなりまさるのでしょう。その肌に立つ一つ一つの鳥肌が、アナトール・フランスならば、真珠というでしょう。わたしの手や腕が、こんなにひびだらけになり、踵の赤ぎれが痛くてびっこ引いて居りますが、それも生活の赤き縫いとり飾りだと思ってね。赤い糸の、こまかいびっちりの十字|繍《ぬ》いなんかそうざらにはないわ。ほめて頂戴。でも、原始の人たちの生活のように春を待ちますね。動物はどんな気もちで春を待つのでしょう。
 昨日、いつもお正月にお目にかける寄植の鉢をたのめました。すこし時おくれですが、其でもやがて小さい梅の花も咲き福寿草も開くでしょうと思って。ささやかな眺めとして、ね。凍らないもののあるのはたのしいから。留守番の人は一寸申上たように始めの若い夫婦にきまりました。生活費と云っても配給もの丈でしたら、この節として仕方ないでしょう。それに一方の人は、余り大勢で壕に入りきれないし、この数年のうちに揉まれてすこしルンペン性が出来ていて、万※[#濁点付き小書き片仮名カ、518−16]一失業したりしたとき、うちがやけずにいたりしたら、いつか一
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