つ一つと何か見えなくなって行くような可能もあり、実は一番そこを気にして居りました。だから自分の腕で働き、小僧さんから叩き上げ、人物を見こまれて肴町の春木屋という鳥やの娘をもらっているその男の方が、小堅くていいでしょう。細君が来ましてね、厚みのあるきもちのいい人よ。ざっくばらんに何でも話してあっさりやろうということにし、そのひとは良人のために好きなものをこしらえて食べさせたいだろうから台所はその人がして、わたし掃除ということにしました。うれしいわ。少くともこれ迄よりよほど楽になります。この夏時分はひどうございましたもの。日比谷から帰ると六時、それから台所をして夕飯八時でした。
 そちらが早朝なのは辛いけれども、夜は何にもしないで臥ることを専門に考えて、在宅日の午前、そういう日の午後と活用すれば本当にようございます。ともかく主軸となって台所やってくれる人が出来るのはうれしいわ。マンスフィールドの日記なんかよんでも、本腰で仕事しようとすると先ず家事担当者をいろいろ苦心していて、どこも女は同じと思いました。その夫婦は大体七月頃までこちらにいて、あとはどこかへ勤めが変るのだそうです。ラジオやさん
前へ 次へ
全251ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング