、却って、わたしの、ほかの誰にも示すことのない混乱や卑屈さとなるのでしょう。心理のこんぐらかりというのは、変な思わぬ結果を生じるものであると思います、わたしは心理的[#「心理的」に傍点]に生活することはさけている人間だのに、ね。そんな心理にひっかかる丈、つまりわたしは十分自身として強固でないといえます。書いて、分析して見ればこういうことと自分にも分りますが、はっとして赤面するときの気持は愧しいばかりです。妻がそんなに赤面するのを見るのは夫としてさぞ面映いことでしょう御免なさい。

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[自注10]日の出――巣鴨拘置所附近の日の出町。
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 四月十八日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 四月九日
 きょうの雨は、しずかで春らしくていい心持です。わたしのすきな雨のふりぶりです。珍しい珍しいことがあるのよ、久しぶりに本当に落付いた気になれて、自分の部屋をこしらえました、寿にてつだって貰って。
 病気してから目がわるくて、光線の工合が実にむずかしくなりました。これまで、二階の奥のひろい室に机を置いて居りましたが、廊下がふかいの
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