申しました、「これでお宅へ火がついたらうちはおしまいですよ。いくら消そうたって、叶うもんですか」だからね、わたしがおとなりの疎開をよろこぶわけ、おわかりでしょう。もうここの隣組でその家の人がいるところは殆どなくマヒ状態です。ひどいのは家財道具おきっぱなしで人はいません。全く焼けて下さい、という有様です。その間にはさまってブランカ火消しで落命したくはありません。
ここが焼けて、いきなり行くところがなくてはいけないので、中野区鷺の宮三ノ三六近藤方にきめました。うらの近藤さんの老母がそこを退くのです。つい近くにもう一軒疎開手続をした家があって、そこがひろいから近藤さん一家が移る計画ですが、とっちもまだ空いてはいないので(次のドカンボーまでのことでしょうおそらく)一先ず老母の家へ近藤さんが移り、わたし達がやけ出されていったら二つの家の間で割当てて暮すという約束にしました、火にまかれるのが一番こわいわ。荷物をもった人波で動けないうちに、火に囲まれたら最後です。決して決して国民学校の地下へなんかかたまるものではないことね。麦が成熟する時期は郊外も油断なりますまい。
十四日のお手紙、塩の物語[自
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