ようなところが、こんなにも遠方になります。
 三月十八日
 けさは、目がさめてから暫く床の中にいて、いかにも土が黒く柔かくなってゆく朝のこころもちでした「春らしい朝ねえ」わたしがそう声をかけると、となりから答えがあります「本当にそうですわねえ」これは瀧川という娘よ。このひとの兄は蔵前で到頭義母(妻の母)と焼死しました。
 起きて、朝飯たべて、それから二人で畑ごしらえをしました。この娘さんは畑の畦を切り、わたしは去年の秋からこしらえてあった肥料をかけ、又土をかけ、小松菜やふだん草やを蒔きました。種が余りよくなくて自信ないけれども買いに行っていると、きょうのことにならないから、蒔いてしまいました。この節の野菜なしと来たらお話の外ですから。「この頃のような暮しだと、こわくない半日だの不安のない一時間が実にうれしいわね、玉のようね、だから、そういうとき、本当にたのしいことをしたいと思うのに、ダラダラ儲けた話でつぶれるとくやしいのよ」そんなことを云い乍ら、桜の鉢をいれかえたり、水仙の球根を植えたり、シャボテンに土をかけたりして、殆ど終ったら警報が出ました。
 今、午後三時頃。二度目の解除。わたし
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