は、そのたのしい数刻を尊重して小机をかかえこみ、瀧川という子は、わたしの上っぱりを縫いはじめました。風が出て来て、カナリアのチイチイチイ、チチチチチというメロディアスな声を吹きちぎります。
 きのうは、朝六時にトラックが来て、春木屋の荷と人とをつんで茨城の田舎へ運びました。ここの家には今おやじと中学二年の弟とがいます。弟はずっとここから京華に通うでしょう、おやじは、東京にうちがなくなったから上京すればここに泊ります。「その代りあっちからお米や何かは運びますから」「その代りと云わなくたっていいさ、もって来てお貰いしなくちゃどうせならないにきまってはいても、ね」
 わたしたちが畑をしているとき、細君は椽にかけてつくろいものをしています、息子はムツという犬を抱いてムツが何か食当りしてくにゃくにゃだと云ってしらべています。都会の人って面白いのね、わたしたちは誰かが土いじりしていると、つい誘われて何かしたくなるのに、町の人ってものは、そういう気分が全くないものと見えるのね。
 きのうは、六時頃起きて荷出しにガタガタしたから、何となしうんざりして思い切って成城までモンペとりに出かけました。行ってよ
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