)屋根にのぼり見はりをして、ああいうとき屋根の上に男がのぼっているというのはいい心持です。となりの家では十三四の男の子がのぼり其でも一々下の母親に大体の方向を叫んでいました。男の子っていいことね。
 うちでは非常措置として土蔵の地下室に菅谷のもちものうちのものなどしまい、すっかり入ったら二階の畳をはいで、グランドフロアにしきつめ二階が燃えても地下はいくらか助かるようにしました。他人がいると、その人のこころもちを考え、こうしてここを守ることはとりも直さず自分を守ることにしてやらなければ、ね。その仕事したら手伝に来ていた荷作りの男が、自分のものも入れてくれ、ときのう荷車一台ひっぱって来て自分でしまってゆきました。
 この地下室は因縁があって、英男という弟が高等学校上級の年この中でガスを発生させて死にました。昭和二年頃。国男たちはそれでここがこわいのよ。わたしは遠方にいて[自注5]、自分の目で見て居りませんから、その弟の善魂がそこに在るならあると思うし、おバケが出るなら火消しに出てくれると信じていますからそこを十分に活用する決心いたしました。そしてわたしはベッドを食堂へ持っておりて暮す予定に
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