たしましたが、おかげでうちの屋根は火の粉から守られました。きょうは、食堂の南側の陽向に背を向け、例の小机をおいてこれを書いて居ります。カナリアが風の中に囀って居り、ラジオの横に柔かい桃色と白との春らしい花があります。この花は丁度二十四日だったかいかにも春雪という感じの日に団子坂下の花やで買って帰ったのでしたが、その花屋はもうありません。カナリアの餌もどこで買ったらこれからいいのかしら。家の様子も十日の明方からすっかり変って、春木屋といううちにいる細君の実家の一家が五人ぞっくりと若い男の子女の子、母親が来て居ります。この一家は、いろいろのものを疎開し、御宿《オンジュク》に住居をもって居り父親は仙台の方に鉱山をやってそちらに疎開する決心して居たので、比較的元気ですしあわててもいず、ようございます。田舎行までいるでしょう。
十日の明方には、もうバカンバンバンには辟易しているので恐縮していたら、そうでない方だったので勇気百倍、まして北風で向きがよかった上、北方上手に投弾されなかったので大助りいたしました。烈風でしたからよほど弾は流れ見ていると、殆ど横に吹き流されていました。主人公もいて(菅谷
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