雪つづきでした。いかめしい建物の庇合わい[自注3]にうずたかく凍って、いつまでも白く見えていた残雪の風景を思い出します。楓という樹は若葉が美しいばかりでなく、秋が見事なばかりでなく、雪を枝々につけたとき大層優美なのね、末梢が細かいから、そこに繊細に雪がついて。きのう沁々とながめました。雪景色の面白さは、こまかい処にまで雪が吹きつもって、一つの竹垣にもなかなかの明暗をつくる、そこが目に新しく面白いのね。雪は本当に面白いわ。そして、薪を雪の下から出して、サラサラとはいたらちっとも濡れていなくてすぐ燃えました、雪の下の地面は、降ったばかりのときは全く干いているのね。ほんとにこれなら雪を掘って人が寒さよけにするわけと感服いたしました。これまでも見ていたのでしょうのにね。もしこんな雪の下に芽ぐむ蕗の薹《とう》でもあったらどんなに春雪はやさしさに満ちるでしょう。昔は、わたしがたどたどと小説のけいこをしていた部屋の小庭の松の下に蕗があって、丸っこくて美味しい芽を出しました。わたしには、家のぐるりに、ちょいちょいと茗荷だの蕗だのというものがとれたらうれしいという趣味がるのよ。そして楓の多い庭がすきなの
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