なさすぎます。何も可能の第一日目に出なくたって、必要なものが出されなければならず、その必要なものというのは、昭和十五年から二十年前半までの文芸批評であり、それを極めて立体的に扱ったものであり、「十四年間」と一括されたものでなければなりません。前途に展望と希望とを与え、新しい文学の働きてを招き出す息吹きにみちたものでなくてはなりません。それは、ほかの誰にでも出来るとも云えますまい。鎌倉住いの作家連は出版事業を計画中の由。所謂職業作家が、彼等の波に漂う精神をもって、新しい日本に何をもたらそうというのでしょう。
 こちらには、読まなくてはならない本をすこし持って来て居ります。
 お母さんが、そちらからのお手紙見せて下さいました。八月二十六日の分も。そして、その中に、わたしがそちらに行く計画も変化したかもしれずとあり、その通り御洞察と思いました。
 いろいろの点から、これからそちらへ行くことはやめます。網走を知らないことは残念ですが、少くとも来年の春迄の間に、わたしがそちらへ行くことはおやめにいたします。書く仕事の点から丈云っても、資料の関係や何かで東京にいないと困りますが、食物が余り閉口で、
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