、というほど仕合せを感じていたのなら、せめてもです。
卯女の父さん、てっちゃん、鷺の宮、開成山からお見舞をもって来ました。わたし達からは百円ともかくさしあげました。わたしが帰るときには、この前野原やこっちへお送りした分ぐらいおいておこうと思って居ります。必要はないと云ったって心もちのことですから。それにつけ、こういう不幸が、いくらかわたしの収入のひらけた時に起ったのは不幸中の幸と思われます。過渡的な状況ですしあれこれと妥協点が求められているし、或線で彼我一致の利害もあり複雑ですから、決して前のめりはいけないけれども、昨今の事情にふさわしい範囲で相当いそがしくなります。
いつぞや筑摩から金を前に借りることはしない、つまり原稿をわたすことはしないと云って居りましたろう? あれはよかったわ、筑摩は、あの頃の気分で本の内容に希望をもっていました。わたしも殆ど同じ一般の空気の中にいたから自分から云い出した題目でしたが、(それは昨年の暮近く)段々こころもちが変って、書かないでよかったわ。今のこころもちで、この状況の中で、第一番に宮本百合子の出したのは、子供時代の思い出だというのではわたしも情け
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