仕事出来る丈の食物がなく、其を獲得する努力をしては勉強どころではありません。こういう風に衆議一決いたしました。わたしは当分開成山にいて、仕事の出来る室か家を見つけ、一番近い足休めの場所として暮すこと。一ヵ月に一度ぐらい、上京すればいいこと。どうせ仕事をもって来たり、本やとの打合わせがありますから。そして、林町がやけていないのだからそこへは優先的に戻れますし。
来年の春までのうちに随分あれこれと変化いたしましょう。このごろちょいちょい泉子が来てね、うれしそうに、たのしそうに、賢そうなことや手ばなしの話をいたします。何よりも心配なのは好ちゃんに御馳走するのにものがないことだそうです。わたしも其には心から同情いたします。本当にそうでしょう。好ちゃんは本当に見事に義務を守った勇士ですから泉子のこころとすれば世界の珍味もまだ足りぬ位でしょう。それだのに「ねえ察して頂きたいのよ」と申します「わたしは、これっぽっちのかんにお砂糖をためたのがあるきりよ」と二つの手で小さな丸をこしらえて見せます、「ほんのちょんびりの油があるきりだし玉子なんてどうしたら買えるでしょうね。田舎でも一ヶ二円よ」と申します。
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