他中国、ソ、オーストラリア、オランダ、カナダ、ニュージランドなどの代表が調印したそうです。日本人記者二名が陪観し、その艦上にペルリが下田へ来たときたてていた星条旗と真珠湾に翻っていた旗とを二つ貼ってあったということを報道しました。
 それからね、マッカーサーは、「ガラスのペン軸をとって」署名し云々と、その記者は申しました。わたしは何だかこの小さい一つの不確かな観察の中になかなか意味があるように思うのよ。物を書く人間の感覚として、昨日マッカーサーが記念的署名をするときに、貧乏謄写屋のようにガラスのペン軸を使うなどということは信じられません。きっと其は最新流行の合成樹脂の透明なのでこしらえたペン軸だったのだろうと思います。昔なら銀をつかったところでしょう。日本では、以前贅沢品ばかり売っていた店に、贈物用の櫛、シガレットケース、傘の握りなどとして並べられていて、一般の日常生活には入っていません。その記者も一瞥で、それをガラスとあやまったのではないでしょうか。こういう点に何か不確さを感じさせるような常識の差異があるわけです。そして其は、最高の科学にも通じている道です。
 昨夜、スウィスの新聞が
前へ 次へ
全251ページ中222ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング