四種で順ぐり送っておきます。そちらであなたに御不用のものを下げて頂くことが出来ましょうと思って。それがお互様に便宜でしょう、明日郡山駅で切符は申告いたします。成功することを心から願います。
八月二十六日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書 書留)〕
八月二十四日
夏の終りの荒っぽい天候になりました、北側の山々(安積山の山並)が、深い藍紫色に浮上って見えるようになりました。盛夏の間こちら側の北はぼんやりしているのよ。朝起きてその濃い山並を眺めやり、もう秋のこんなに近いこと、そちらのことを思います。そちらの山々はきっともっと秋めいた色をしているのだろうと思い乍ら。そして、縁側においてあるわたしの小さな行李の中みは、入れかえなければならないと。もう麻の着るものは来年まではいらないし、秋のものはもっと入用だし、戦争がすんだからにはもんぺばかりでも困るのだろう、帯も一本は入れなければなどと。
昨日ハガキに一寸書いたとおり、十日までには必ず切符を持って来ると云っていた寿江が余り音沙汰ないのですっかり心配していたら、一昨日の夕方ひょっこり来ました。八月一日に来たとき寿は心
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