配で一人でやれないからせめて船にのる迄送って行く。そして後から北海道へ行って暮したい、そう計画したのでした。事情が変りましたからわたし一人で結構ですし、寿が北海道へ来ない方が大局としていいでしょう。しかし寿とすれば、事情が変ったから送るのもやめたし北海道もやめた、待たしてすまなかった、というべきです。あんなに縋るように自分の身のふりかたに困ったことなどケロリとしているのよ。
波瀾の中で一人で気をもんだのだから仕方もないと咎《トガ》めませんけれども、得手勝手ねえ。そして自分の得手勝手を対手の側に理由づけるところが気に入りません。切符は駄目だったのよ、どうする? 困ったというところを、「まさか行こうと思ってるなんて思いもしなかったから」というのよ。可愛気のない心の動きね。つまりわたしの心もちも自分の都合で軽重変化するのです。決して当てに出来ないわ、それが寿の直接問題でない場合。国と寿とは、互に同じこういう点でいつもぶつかり合い、互に其を共通の欠点だと思わず対手をせめるのです。小人の必然として主我的なのねえ。その主我もリップスのところ迄も行っていないのよ。即ち自我の発展としての信義、愛の恒
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