5]すっかり違う条件――一九四二年、巣鴨拘置所で倒れて以来の回復しきらぬ健康状態。
[#ここで字下げ終わり]
八月二十三日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(京都三十三間堂の写真絵はがき)〕
八月二十三日
寿江子の安否気づかって、あちらこちらへきき合わせていたら昨夕ふらりと来ました。そして、物のはずみで国と出会って国もこっちの家へ来るようにと云い、何年ぶりかで、ここで夕飯を一緒にたべ、わたしはうれし涙をこぼしました。うれし涙をこぼしつつ、こういう生活の愚劣さに歎息いたしました。これほどの思いをしなくては、兄と妹とがマア一つ屋根に数日くらす修業も出来ないのかと思って。近日中に出発します、つまり私一人で。途中安全となりましたし、寿の方針も未定だしわたしは一日も早く行きたいし。四種がゆくのできょう、メレジェコフスキーの『神々の復活』、レオナルド・ダ・ヴィンチを描いたもの四冊(文庫)ブルックハルトのイタリー・ルネッサンスを(全部で五冊)二包として送りました。ブルックハルトのは上巻一冊だけで相すみませんが、下巻は入手出来なかったものです、或は出版しなかったのかもしれません。
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