いう危険をおそれるからではなくて、自分のような諸条件を得て、一歩ずつ歩けるものは、たとえどんなにたどたどしくても、その最もエッセンシャルな部分に全力を注ぐべきだと思うのです。そうしなくては勿体ないと思うからよ。まして健康を損われて、あの時分のように、一日に十何時間も仕事が出来た頃とすっかり違う条件[自注25]においては、ね。
 先月の五日にこちらへ来て一ヵ月と十日ばかり(間で東京へ一週間)経ちました。そちらへ行くのがおくれてへこたれです。ただ生物的日々を過す生活というものはおそろしいものねえ。こんなに紛然、騒然として朝から夜までつづき乍ら、しかも何一つ、本当に何一つ形成され、造られ、のこされて行かない家庭生活は何と怖ろしいでしょう。自然子供が大きくなるの丈が何かだという生活は何とおそろしいでしょう。こうして手紙かいているということは、一縷のわたしたちの人生的糸です。
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〔欄外に〕
 小包は何も出ません。従って本の目録も只御覧になった丈。しかし注文は頂いておきましょう。いつまでも閉っても居りますまいから。
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[自注2
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