思います。
自分の仕事のしぶりを時々吟味してみることは何と大切でしょう。しかしなかなかそういう機会にめぐり会えないものです。只時間として仕事と仕事との間にブランクが生じる休止はおこり得るし、わたしが例えば病気で何年も仕事出来なかったという丈のことは誰の上にもおこります。でも、その休止の機会に自分が本質的に一歩なり二歩なり前進し得るということは本当に稀有なことです。大抵は「見識が高くなる」丈なのよ。この数年の間作家として一点の愧なきと申しましたが、一つ誤りをあげるなら、それは仕事のあるもの――婦人のためのものです――が当時のジャーナリズムに影響されなかったとは云えないことです。この点は作家としての回想の中にも書き洩せないことだと思って居ります。その発見の価値よりも、寧ろそれを自覚させるに到った諸事情の価値によって。
これを思うから、わたしは文学の進歩がどんなに大したことかと痛切に感じないわけに行かないのです。御同感でしょう? その時期でも文学史についての勉強などそして小説などは、同じ危険に同じ程度にさらされては居りません。これからわたしは文学の仕事しかしようと思わないというのは、そう
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