た姿で背高く繁っているところに点々と澄んだ紫の花を浮上らせて居ります。きょうも練習機はとんで居ります。のっているのは若者たちでしょう。気分がわかるようね。歴史の景観の一曲一折は深刻であり、瞠目的であり、畏るべき迫力をもって居ります。悲喜を徹してそこに人類と諸民族の美と真と善とを確信するようなこころの勁さ、ゆたかさ、不抜さがいよいよ輝く時代です。いかにも心をやるように、自分の体を大空の中でくるり、くるりとひるがえすように飛ぶ音をきき乍ら、ああいう若い人に一粒ずつ不老の秘薬のようにこの「恒ある心」の丸薬をわけてやりたいようです。この波濤に処するのに素朴な純真さだけがあながち万能ではないでしょう。ラジオでくりかえされるとおり沈着であっても猶聰明でなくてはなりませんから。
まだ覆いははずしませんが、昨夜庭へいくらか光がさす位の灯かげのまま十時ごろまで坐っていて、明るくてもいいのだという新しい現実を奇異のように感じました。よく深夜都会の裏の大通りなんかで皎々としたアーク燈のゆれているのを大変寂しく見ることがありましょう? 明るい寂しさというものを真新しく感じました。いかに視野をひろく、視線を遠
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