自分の心の命じる通りにしてみるしかしかたがないわ。ね、そして私たちの生活の一点の曇りなさを確保しなくてはなりません。しかし、先ずそちらへ行きたく熱中しているこころもちを許して下さい。

 八月十八日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書 書留)〕

 八月十六日
 昨十五日正午詔書渙発によってすべての事情が一変いたしました。
 十日以来、空襲がなかなか盛で(結局通過した丈に終りましたが)十四日夜は九時すぎから三時近くまで国男と二人で当直いたしました。田舎暮しで何にも分らず、十五日のことは突然ラジオで承った次第でした。昭和十六年十二月からあしかけ五年でした。前大戦の時(十一月)丁度ニューヨークにいて、休戦の実に底ぬけな祝いを目撃しました。十五日正午から二時間ほど日本全土寂として声莫しという感じでした。あの静けさはきわめて感銘ふこうございます。生涯忘れることはないでしょう。この辺は町の住民の構成が単純ですから、そして大きくないから到って平らかです。ただ新しい未知の条件がどういう形をとって実現してくるかということについて主婦たちも心をはりつめているようです。
 昨夜、もう空襲が
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