でしょうか。札幌鉄道局の地図をみると、旅行者がいろいろ思いがけない間違いをしないように、必要な色どりが特殊区域にほどこしてあります。それをみると、わたしの切符のむずかしさが身にしみます。特に本月に入ってからはね、九日以降は。
 わたしはこうしているうちに段々一途な気になって来ます。どうしても行かなくてはすまない気がつのって来ます。その気分は、段々自分の身が細まって矢になるようなこころもちよ。雲になり風になりたいというのではなく、一本の矢となるようです。それは一条の路を、一つの方向に駛ります。そうしか行けないのよ、矢というものは。只一点に向って矢は弦をはなれます。狩人よ矢をつがえよ といういつかの詩を覚えていらして? われは一はりのあずさ弓 というの。弦が徒に風に鳴る弓のこころも ですけれども。
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わがこころ ひともとの矢 まだら美しき鷹の羽の そや風を截り 雲をさきて とばんと欲つす かのもとに いづかしの 樫の小枝に いざとばん わがこころ そやの一もと。
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 その矢が放ってくれる弓をもたない歎きの深さも矢のない弓の歎きに
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