八月十三日
 きょうは盆の入りだというので、小さい子供がすこしきれいな浴衣をきたり、花を剪ったりしてざわめいて居ります。今朝五時半にサイレンが鳴りましたが事なく目下は警戒中。小型は早朝から日没までかせぎます。
 さて、こんな漫画覚えていらっしゃいますか。サラリーマンが珍しい夏休みをもらったが、どこへか行きたい、行くには金がかかる。夫婦で地図を眺めて休み中暮している図。これは苦笑が伴うにしろ笑い草ですけれども、わたしがこうして日に一度は地図を眺め、研究して[#「研究して」に傍点]日を暮しているのは、やや惨憺ものです。いろいろな地図をみます。札幌鉄道局が十四年に出した北海道旅の栞というのは、旅行者に便利に出来ていて、網走町というところを見ると、山積された木材をつみこむ貨車の絵の上に、簡単に物産の説明があり、名所(景勝)もかいてあります。これでみると、網走の町から程よくはなれた駅から二三里入ったところに温根湯温泉というのがあって、神経系の病気にいい湯のあることもわかります。それから父が旅行に使ったポケット地図。三省堂の世界地図附図。更におどろくべきはここの家の戸棚から徳川時代に作られ
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