の生涯も亦浪費から救われたということになります。よさをよさとしてまともに反映する、ということはうれしいことね。本当に快いことね、年月を経るにつれて、其の味の尽きないこと。人生の妙味というような表現は、大家連が月並に堕さしめましたが、その真の生きのいいところこそ、生けるしるしありと申すべき味です。そして、よさをおのずからよさとして滲透させるまでに反映するためには、鏡は恒に一点曇りなく正しい位置におかれ、そして私心あってはなりません。小さい鏡でも天日をうつし得るというのは面白いと思います。
こうして、不規則な形にこわされたものの間で営んでいるような日常生活の中で、実にくりかえし、くりかえし人間の小ささと偉大さとの不思議な関係について考えます。人間のしなければならない下らない、下らない小さいどっさりのこと。そんな事をしなくてはならない人間が、一面になしとげて行く偉大な輝やかしい業績。その関係は、何とおどろくべきでしょう。ノミにくわれてかゆがって追いかける、そういう事。それが一つの現実だけれども人間は其だけではないわ、ノミの研究をいたしますものね、ノミの社会発生の源《ミナモト》を理解します。
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