しておけるものでないと同様にその生活も、人目にかくすところがあろうわけはありません、失敗だって何をかくす必要があるでしょう、もし当然な心の動きに立ったのなら。動機が純一ならば。ねえ。寿が、北海道へ行って暮そうと決心したことで、これまでのいらざる頭のよさ、先くぐり(すべて俗っぽさ)をすてて、あの人の本性にある粘りつよい質朴な、芸術を生むまでに到らなくても理解するこころ丈を正面に出すようになったら一寸見ものと思われます。あの人は誰からも、わたしより「大人っぽい」と思われます、それは悲しむべき点よ。寿に云わせれば、「末世に生れた」からだそうですが。そういう肯定のモメントを見出すのもバカニハデキヌことでしょう、そしてそれがあの人のマイナスだったのですが。
九族救わる、という言葉のあるのを御存じ? 坊さんの言葉よ。一人出家するとその功徳によって九族が済度されるということがあります。
善良なるものの影響ということを深く考えます。父の場合にしても一つの例です。その善さは、卑俗になりかかる心に一つの善さを呼びさまし、終にその生涯を美くしくあらしめましたし、寿の場合にしろ、やはりこれが成功すれば彼女
前へ
次へ
全251ページ中188ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング