切符が出来るかしらと思って居る有様です。
 考えると、父は思いやりが深うございました、わたしのこころもちの内の姿も或程度は見ていたのでした。その思いやりと正直な廉恥心のようなものから父は自身の晩年に少なからぬ不如意を忍んだのでした、しかし其は気の毒のようですが、父のために慶賀いたします。もし仮に父がそういう感覚のない処置をして僅か二三年の晩年を過したとしたら、父の生涯は極めて平凡な、ありふれた老人の世俗的処置で終り、少くとも、わたし達が、其をよろこびにも誇りにも思うような初々しい、老いて猶若々しい人間らしさを感銘させることはなかったでしょう。
 今のわたしのような待ちかねたこころもちで、何一つ待つということのないような、日々の混雑と国とすれば「快い無為」(咲ばかり忙しい)生活の中にまじっているのは一修業です。本当にそちらのお暮しはいかが? 山は近くに見えるのでしょうか。
 わたし一人が遠く旅行するのは心許ないという意見があっていろいろ話が出て居りましたが、寿が、ね、一緒にそちらで暮す気になって来ました。はじめは只一人でやれない、と云っていたのですが、千葉の今いるところは、この節「雨霰れ
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