」となって来ましたし、信州の追分なんてところは、食物の問題で到底いられるところでありません。寿の居どころについては心痛して居りましたが、自分もよくよく感じたと見えて、つまりこの際生活をすっかり切り換えて、人生の新発足をする機会を見出そうと決心したらしいのです。北海道へ行き、私はどちらかというと特殊な条件で制約されなければならないから寿はどこかすこし離れた町で、もし出来たら専門の仕事もいくらかして結婚の機会も見出そうと思う風です。
寿が三十一歳になる迄、この十何年を病気の故ばかりでない、どうにでもなるということのために却って浪費した傾だったのを、残念に思って居りました。今になってそう思いきめたとすれば、昨今の生活が教えたところが甚大であり或意味では敗北もし、そして或は却って地道になるのではないかと思います。そういう打合わせのために、八月一日に突然参りました。開成山へ来たと云ってもここへは来ず、よそに行ってわたしを呼び、咲が宿をこしらえ、そこへ弁当なんか届けるという気の毒な始末です。
そのときはっきりそういう話が出て、一緒に立とうかどうしようかということになり、わたしは先便で申上げたよ
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