白いが、あれは失敗の部分のある作品です、其にもかかわらず、あれは愛好するわ。そういうものなのねえ。作家としてはその点がひどく自省されます。愛される作品とはどういうのでしょう、ただ賢い作品ではないし、只鋭い作品ではないし。ベルジュレ先生に対してナポリ学者が云って居ります。「人の心をなぐさめ聖なる言葉」を発する「正義と博愛の使徒たらんことは欲しなくなった時」フランスの魂は人々の心を打たなくなった、と。作品も同じだと思います。そしてそういう作品は作家が、生命の滴々をそそぎこまなくては創れません。滴々とそそぎ込み得る生命の内容を、生活の時々刻々によって蓄積して行かなければ。この千古の真理は、何と恒に新鮮でしょう。人間が生きる限り、老いこむこと、お楽《ラク》になることを決して許さない鉄則の一つです。
この頃一寸した事から面白いことを発見いたしました。祖父は大久保利通と共鳴してここの開墾事業に着手したのですが、当時国庫から全部の支出をしかねて、郡山の金もち連を勧誘して開成社という出資後援団体をこしらえざるを得なかったのね。開墾が出来上ると、出資者たちはおそらくその額にふさわしく農地を所有したよう
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