子のルー君やナポリ学者と話す見解も極めて肯けます。そしてこれらの部分においては、バルザックよりも時代と頭とが進んで居り、洞察も正確です。アナトールの作品としてこの現代物語は大切なものだし、注意ぶかく読まるべきものなのね、それだのに、こんな半端な翻訳しか出なくて。さわがれるには智的すぎるという風な作品よ。スタンダールの態度は同じ超俗であっても趣味のきびしさ出たらめぎらい甘さぎらいだったと思います。アナトールのは趣味のよさにしろ洗煉《リファインメント》ね。洗煉というものはむずかしくて洗煉ずきの俗っぽさがいやというもう一段上の趣味の高さがあるから面白うございます。スタンダールには、この瀟洒排斥の勇魂がありました。芥川がアナトール好きでした、何か感じるわねえ。そして作品というものは面白いと思います。思索の上での同感は必ずしも作家への愛情とならず作品への愛着となりません。同感するということと愛好するということの違いは微妙ね、人間関係におけると同じに微妙です。ロマン・ローランの「魅せられた魂」はベルジュレ先生がルー君に話したような愚劣さへの抗議をアンネットという女主人が行動として示す点は歴史的に面
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