流れ込む空気には、きっと海と山との交り合った調子があるのでしょうね。清涼とおっしゃるような空気で、いやな虫もいなければ、しのぎいいことね。海に近い柔らかさは、千葉の江場土でおどろくように甘美でした。そちらの海はもっと雄大で勁いから、きっと空気の工合もちがうでしょう。流氷が大したものだそうですね。高い崖の下でうち合う流氷の音が、もし深夜にきこえたとしたら、夢も北極までひろがると申すものでしょう、北極でさえも現代では只恐ろしい白い土地ではないのですものね。
 そう思うと、まだまだわたし達の旅行の方式は古風きわまるものだと痛感いたします。そして、何と一寸した障害に困難するでしょう。まだまだやっと自然条件をいくらか克服したという程度ねえ。
 其でも余り悪口は云えないのよ、わたしの体質は航空上非常に不出来で、上空では悪性の脳貧血をおこします、五時間以上は駄目だし、其でさえピンチなのよ、貧血で死ぬのですって。だから、もし空の道が自在になったときどうしようと全くふざけでなく心配よ。しかしそうなれば又何とか対策も出来ると申すものでしょう。船と航空機は苦手です、地の生物キノコ風ね。
 七月十日に出した地
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