を立てて居りました。その日光と大気の中にあなたの毛布をよくひろげて乾します。今年は東京でも、ここでも洗濯に出せませんので。東京には毛布うけ合う洗濯やはないし、ここは、その店の辺がけさも、で迚も大切な毛布はあずけられませんから。檜葉《ひば》の枝と松の枝との間に竹竿をわたして、あなたの毛布が空気を吸っている彼方には安積山の山並がございます。雑草の花が毛布の下に咲いて居ります、山百合が自然に生えて、けさ二輪大きい白い花を開きました、暑い昼間の空気にその花は高く匂います、そちらにも百合の花は咲いて居りましょうか。匂いたかく、咲いて居るでしょうか、昼もかなしけと今年も咲くときがあるでしょうか。桔梗もこの庭の野生のは色も濃く姿も大きく美しいと思います、百合も精気にみちて開いて居ります、花やの花と何という違いでしょう。
そちらの風景の大さは想像されますが、何だか眺めていらっしゃる景色の細部がちっとも分らないこと。あたり前だけれど。そこいらの空気はどんな匂いがいたしますか? 東京から行くと、ここでさえ大気は生きている草木の芳しさでいっぱいです。松柏が多いのでなかなかいい匂いの土地です。そちらの窓から
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