、「空気」ということを、わたしは幾重にも興深く感じます。空気は恐怖を感じさせない不思議な力をもって居ります。いい空気ほどそうよ、それは美味であるし快適であるし、益※[#二の字点、1−2−22]こころよく其の裡に心も身も浸そうと欲するものです。わたしに、そういう空気があり、混濁した瓦斯っぽい中で息苦しくなると、その空気を心から吸い、そして元気をとり戻します。その空気の流れるとおりいつかついて行って、そこには特別な躊躇だとか狐疑だとかいうものはちっとも起りません。これは考えれば考えるほどびっくりして、マア何と性に合っているのだろう! と満悦と恐縮を感じます。だってそうだと思うのよ、すこし謙遜な人間なら、自分に、それ程性の合う天のおくりものをさずかったら、ありがたさに恐縮せざるを得ないと思います。しかも、その空気は、本質の良質さを明瞭にするために、実におどろくべきテストを経るのですものね。実に恐縮です。そして、そのような滴々是珠玉のような空気によって、わたしが健やかにされ、天質のプラスの面を引き出されてゆくのかと思えば、殆ど空おそろしい位です。自分に果して十分の消化力があるかどうかと、畏れま
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