いいわ。
こうしてわたしはもうそちらの生活に半ば入って話して居りますが、あなたのお疲れは、さて、いかがでしょう、どんなにかこたえていらっしゃるとは思いますが、同時に、どんなにか、ほっとなすったところがあろうかとも思います。巣鴨は焼けてからは実にでしたものねえ。こんどは、わたしもここへ来て、夜の眠りの深いのにおどろきます。房総南端より、という情報が、どんなに距離をもっているかとおどろきます。十四五日までのうちにもう一度帰京して、二十日ごろそちらに立つ予定です。本月中にはお目にかかりましょうね。呉々もお大事に。
七月九日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書)〕
七月九日
おひるごろ炉辺に坐っていたら「郵便が来ました」「はい、どうも御苦労さま」というのが、うしろできこえました、わたしは、「遊歩場の楡樹」をよみかけて居りました。すると、咲が、はい、はい、はいとヒラヒラさせてもって来てくれたのが、七月三日づけのお手紙でした。本当にありがとうね。
新しいようなさきの堅そうなペンで書かれた字を、うちかえしうちかえし拝見いたしました。そちらが番外地というのは愉快ね、その上
前へ
次へ
全251ページ中153ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング