シェクスピアは何ぞというと申しました「神々も照覧あれ」これはロミオも叫んだし、マクベスの悪妻もうなりました。現代のブランカは、神々がどこかでかさこそさせているのを感じるなら、こう云うと思います「あなたがたも見たいの、じゃあ、さアどうぞ。余りそばへよらないでね」だって神々なんてひどい未発育よ。何万年も無邪気のままいるというんですもの。人間のすることではきっとけがをしてよ、うっかり好奇心をおこしたりすると、ね。わたしは親切ものなんですもの。
 こういう風なブランカのひとり笑いに交ってカッコーは盛に鳴いて居り、咲がおみやさんの遺品わけをして話している声がきこえます。あなたもこの冗談はお気に召すでしょう? 明日は本当に帰れましょう、おそろしいがらくたきゃらばんで帰るのよ。わたし、国、そのおみやの親類の物すごい婆さん、瀧川。(わたしの手伝いに)ではね、一日に行きそうであぶなかしくって。

 六月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書)〕

 六月十八日
 きょうもまたこの棚のところへ坐りました。どうでしょう! 切符が(国のよ)夕刻までにしか手に入らず、しかも駅は何とか山のム
前へ 次へ
全251ページ中137ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング