傍点]のせいね。
きょうはあとで、島田へも手紙さし上げましょう。そして、「北町のばっぱ」のところへ行きましょう。これは一郎爺という祖父の代からの知合いの娘でもう七十何歳かです。わたしの子供時代を通り太郎や健坊を孫扱いにして家の世話もよくやいてくれるばさまです。
健坊がおきたら参りましょう、今二時、昼ねよ、健坊はね、さっきわたしに抱かれて体をじかに撫でられているうちにトロンコになって眠ってしまったのよ、笑い乍ら。撫でるということは何と動物らしいそして人間らしいやさしさでしょう、わたしの掌は愛するものを撫でそれを休ませ眠らせたいとどんなに希っていることでしょう。この頃は荒っぽい仕事をどっさりしなくてはならないから、この掌もいくらかは硬くなりましたけれども、愛するものを撫でるに硬すぎる掌というものはこの世にないと思うわ。ふと思いました、感覚から人間を聰明にすることは出来ないものかしら、と。聰明な人間でなくてはいい健全な感覚の鋭さもない、しかしその逆は利かないものかしら。こんなことを思ったことがあります。ここに深く結び合った二人があって一方が何かの障害で知覚を失ったとき、二人だけの最もイン
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