れはすむでしょう。わたしは予約したのよ、もうこれ丈うちのために骨を折ったんだから二ヵ月はバカにならせて貰うからって。寿は信州追分の方へ行くかさもなければ青森の方へ行くかするそうです、わたしと一緒に暮したらいいのに。或はそうなるでしょう。七月十日頃までには、いずれにせよ必ず動く由。こちらへ来る前電報して会ってきめさせました。たった四十円しか全財産もっていなかったのに切符と一緒に新橋の駅のスタンドで本を買っていて財布を下へおいてとられちまったのよ。そういう気分でいるから行くところも手おくれになるのだと例のわたしの小言が出ました。
本気になっていず、何となし斜にかまえているからなのよ。其だけが一応全部であるけれどもあとにはまだ、という気があるから其が隙になってとられます。小事の如きだけれど、寿の半生は、其でいつでも後手ばかり打って来たのですものね。怒濤時代にあんなささやかな者が自分だけポーズして其が何であり得ましょう。ことしはノミ、蚊、蠅ひどくてあわれブランカはボツボツよ。
六月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書)〕
六月十七日 開成山。
ここでは、夜のし
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