つまれているふとんざぶとん家財類。それは全然無性格よ。生活がそこに語られているとすれば、それは生存せんとする姿として在るので、生活意欲とは云いかねます。ふとんは誰でもねるし謂わば誰のでもよくて、この室に其がこうやって出し放されてあるという状況には、今日という時代、その間にこうして生存しつづける本能的な人たちが反映しているばかりです。わたしは、そこのタンスによりかかって「アンリ・ブリュラールの生涯」をすこし読み、本をおいて感じを新しくいたしました。わたしの気分には、この読み下せもしない詩史や聯にあらわされている生活意志というものに対する同感があり、その間にころがっている家財、ふとん類とが、その同感の邪魔として、又はギャップとしてうけとられると。わたしは、ここに納れない自分をむしろ祝福いたします。新しい環境は努力を求められますが、それは其なりに甲斐があって、ここのように家の在るところが村の特別場所だと同じような一種の特別的な隔離がありません。二ヵ月位すっかり休んで事情が許せば先へ移ります。もし早くなればもとより其が結構よ。ねえ。江場土に行って見て来た生活ぶりと何たる異いでしょう。ここで人間
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