は成長出来ないわ。祖父が、謂ってみれば功成り名遂げて村からおくられた土地というようなものは、その位置が景勝であればある丈隠居ですね。でも凄じい時代の推移でこの東に向って地平線まで開いた廊下は、機銃に対してこわいところとなりました。角度がうんと大きいのですもの。あっちの方からだって、空から人が動くのが見えるのでしょうから。
「伸子」の中にかかれたこの庭は、今芝生の隅に壕がほられて、白いマーガレットが野生に咲いて居ります。きょう、わたしは杏の葉の美しい井戸端でもんぺと肌襦袢とを洗いました。あした着て帰るのに。又大汗をかくでしょう。戦闘準備よ。やっと国男が動き出します。切符の都合でどうなることか、わたしが一人先になるか、国と一緒に行けるか。一緒に行きたいと思います。帰るのは、こわく、しかしうれしいわ。心が休まるわ。でも、帰った時家がなかったらどこへ泊ろうねというような話です。親類たちも皆やけてしまったのよ。咲の兄、姉、従弟。本当に、どこに泊るのかしら。やけのこりの近所のどこかよ。今の東京を見たら国もすこしは活が入るでしょう。そして、自分の将来ということについてもいくらか真面目に考えるでしょう
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