に支度して、ペンに久喜まで送られて来ました。国の迎えが主眼で。上野では(一時二十五分)福島行きでどうやら座席をとりましたが赤羽からひどいこみかたで久喜でペンがおりるときは窓から出ました。窓からというとこわいけれども案外なのね。大いに意を強うして郡山でも其をやらなければなるまいと思っていたところ、ともかく体は普通に降りました。大風呂敷の背負袋、国府津へなんか持って行った茶色のスーツケース(覚えていらっしゃる?)それにベン当なんか入れた袋。モンペ、くつばき。凄いでしょう。背負袋からは雨傘が突き立って居ります。
 引上げ準備のため忙殺され疲れきっていて、汽車にのったらゆっくりしたかったのに、何しろ座席の(向い合う)間に腰かけているものがあるほどの上に、あいにく向いにこしかけた男女とも罹災して大いに気合がかかりっぱなしの人物なので到頭着くまで何となししず心なし。段々夕暮れになって山際の西日が美しく日光連山から福島の嶽《ダケ》の山並が見えて来て、短い満載列車はたった一つの灯を車室につけたまま暗く一生懸命にせっせ、せっせと煙を吐いて進みます。郡山につく一つ二つ前の汽車の情景はドーミエ風でした。
 
前へ 次へ
全251ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング