えて眠れるのでしょう? 食べるものよりもわたしは其が欲しゅうございます。とび起きて、モンペはく丈にして眠るのには馴れてもいやです、もし行けるとして月末でしょうね、さもなければ二月初旬。(こっちの方でしょう)実におみやげがなくて閉口ね。おみやげを当にしていらっしゃらないにしろ、自分のこころもちとして、何年ぶりかで、はいこんにちわ、ケロン。としているのは気が弾まないわねえ。下駄はないし。あなたの衣料切符の点がすこしのこっていて、一月二十日までですから、羽織の紐でも買っておきましょう、行くにしろ行かないにしろ。(行かないというより、行けない[#「行けない」に傍点]かもしれないにしろ)そういうものはみんな送っておいて、自分は例のノラクロ姿にヘルメット背負って弁当二度分もって、或は何里も徒歩連絡の決心で行かなくてはならないのだからかなりの仕事となりました。罹災者として以外の旅行は益※[#二の字点、1−2−22]困難ね。
 寿江子は一昨々日千葉へ一寸帰り、今又来て居ります。あのひとも千葉を動く気になって居ります。主として経済上の理由から。あっちはちゃんとした野菜や何かの配給がないから物価の高騰が菜っぱ一本に響いて迚もやれないらしいの。二人家内で四銭の野菜などというものは、大きい蕪1/4に小カブ一つよ。葱ですと、二本です。やって行けなくはある[#「る」に「ママ」の注記]が、其しもやはり土台で、天井知らずのものしかないというのは生活の安定性がなくてやり切れないらしく、北多摩の辺に見つけたがって居ります。せいぜい見つけて頂戴と云っているのよ。ここがやけたら目下ユリちゃんは行くところがないのですから。
 国男たちきっと新年のハガキもあげないのでしょう、御免なさいね寿江子だって。云っているくせに。うちの連中ってひどくナイーヴで眼玉に映っていないとケロリとしてしまうのね、わたしだって同じ扱いうけたのだわ、但、そのときは寿が熱心で助りましたが。では又寒さを呉々も御大事に。
[#ここから1字下げ]
〔欄外に〕
 「風に散りぬ」について一寸おもしろい話ききました、次の手紙で。
[#ここで字下げ終わり]

 一月十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 一月十三日
 けさ、二十九日(十二月)のお手紙到着しました。ありがとう。
 まず昨夜の話からいたしましょう。ゆうべは、一昨夜眠り不足のままでしたから九時頃大いそぎで湯たんぷをかかえて二階へ上りました。寿江子はいやがらせに「いいの、床へ入るとどうせすぐよ」と申します、「いいとも。五分だっていいよ」と床へ入って、さて一眠りして気がつくと鳴らないじゃないの。まあ、と枕の下から時計出してみたら十二時。じゃあ三時頃かな、と又いいこころもちに眠って、又目がさめたら、まだ鳴らない。おはなしのようでしょう? 時計を出したら五時すぎなのよ。さてさてきょうはめっけものだ、これなら朝も大丈夫と、又もや一つね返りを打って、一息に九時半まで眠りました。凄いわねえ。ずっと眠る心持よさ。いつもこうして眠っていたのね、そちらもおらくでしたろう? よかったわねえ。そんな風に臥ましたからきょうは元気だし、天気もよかったし、寿江子が台所に働いている間、ポストへ行きました。そして二十九日のに、やっとめぐり合ったという次第です。
 いかにもいいおせいぼだったのにおくれておしかったこと。其でも結構なお年玉であることに変りはございません。
 本当に去年はなかなかの年でした。精一杯にやってその日その日を送ったので、回想というところまで時間のへだたりがまだ生じて居りませんが、わたしたちの生活の中で、色調つよき年であったことは疑いありません、四月以降相当でした。でも、おかげさまで病気に戻りもしなかったからようございました、それというのもブランカとしてはここでどうしても暮す、という不動の目的があるからやれたので、さもなければ一寸辛棒しませんでしたろう。腹を立てたりしてね。特にわたしとして内部の収穫多き一年でした。船酔いでもありそうな日は、とあり、あんまり適切なので笑えました。あなたお酔いになる? わたしは、船と飛行機は駄目です、普通の酔いかたで、みっともないが単純なのではないのよ、到って行儀よくて何一つ胃から逆流させませんが、血液循環がどうにかなって、脳の貧血、全体の貧血が起り、眼をあけたまま夢中になってしまって、飛行機なんか下りて半日は病人です。それが一定の時間を超すと、そのまま死ぬのですって。閉口ねえ。ですから、船酔いのありそうなとき、良質の空気が助けとなるということの適切さは、それこそ命の素というわけです。あなたも、余り気持よくなさそうに船酔いでも、と書いていらして面白いこと。泳ぎの上手い人は酔わないのじゃないの? やっぱり酔うの? 尤も船
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